教育DX推進表彰自治体 対談企画第1弾!~日進市教育委員会 岩田教育長を訪問~

2025年度のあらたな企画として、教育DX推進表彰自治体を訪問し現状の取り組みや教育にかける思い等についてお話を伺い全国の皆様にお届けしてまいります。さっそく第1弾として、日進市教育委員会 岩田教育長を訪ねてまいりました。GIGAスクール構想にとどまらず広く教育に関わる思いを伺うことができましたのでお伝えさせていただきます。


■取材日
 2025年5月13日(火)
■対談者
 日進市教育委員会 教育長 岩田 憲二 様
■訪問者
 学校支援部会交流会サブ部会長 富士通Japan 應田 博司


■目次

  1. 教育DX推進自治体表彰の受賞より
  2. 教育施策推進における思い
  3. 地域教育資産の活用に関わって
  4. 日進市としての展望

1. 教育DX推進自治体表彰の受賞より

應田:
教育DX自治体表彰を受賞されたこともあり、教育DXの更なる推進にご尽力されておられると思いますが、そのあたりに関わって教育長としての思いをお聞かせください。

岩田教育長:
GIGAスクール構想によって一人1台タブレット端末が整備され、ICT環境がどんどん整ってきました。その環境をうまく利活用し子どもたちの育成を進めていますが、根幹にある大切なことは、人対人であると考えています。それは、アナログとデジタルの二項対立ではなく、デジタル技術のよいところをうまく取り入れつつ、より良い教育、子どもたちの人材育成を進めていく。例えば、生成AIが目まぐるしく発展してきていますが、そういった新しいデジタル技術に振り回されることなく、デジタルの特性を理解しながら人と人とが関わることを通して教育を進めていくことが大切であると考えています。

應田:
教育長のお話、桃原学校教育課長の授賞式での事例発表など、大変共感いたしております。私も、長年小学校の教員をしていた経験から、子どもの自律を目指した教育を進めていくためには、やはり人対人の関わりが重要だと強く感じています。そこをテクノロジーが強化・支援していく。情報の可視化をはじめ、テクノロジーには多くの利点があると感じています。教育長のお話から、そのテクノロジーの良さをうまく活用し、教育の質を高める取り組みをされていることに感銘を受けました。特に、3月に学校教育課長よりご発表があった、学校現場でこれまで行われてきた取り組みにICTをうまく当てはめることで、デジタルに苦手意識を持つ先生方も「これなら良い」と感じ、取り組みを進めていくという工夫は素晴らしいですね。これは、デジタルを使うこと自体が目的ではなく、先生方が「やりたいこと」を実現するための手段としてデジタルを取り入れるというお考えなのだろうと伺いました。

2. 教育施策推進における思い

應田:
これまで伺っている取り組み内容も含め、日進市として精力的にチャレンジしている様子がうかがえます。そのあたり教育長としての思いをお聞かせください。

岩田教育長:
ありがとうございます。まずは市長の「まずはやってみろ、失敗したら修正すればいい」という姿勢が大きいですね。デジタルに限らず、誰かが先陣を切らないと、良いか悪いかはさておき、後からついてくる人たちがうまくついてこられないという現実があります。二番煎じには先行事例を見てやれるという利点もありますが、日進市では、これまでのアナログな人間の部分に、いかにデジタルの良いところを取り入れるかということを重視しています。我々はかつて、経験からくる「勘」や「なんとなく」「雰囲気」で物事を判断することが多かったように感じています。私が若い頃は比較的荒れた時代だったので、勘がずれていても修正しながらやっていくことができました。しかし、最近の子供たちは一見平和に見える中で、大きく荒れたり問題行動を起こしたりすることは少なくなっています。そのため、教員が人間的な雰囲気を感じ取ったり、勘を研ぎ澄ましたりする機会が減っていると感じていました。先輩から「気付けよ」「これだよね」と言われても、今の若い先生方にはその経験がなく、それが本当に正しいのかという点で世代間のギャップが生じていたと、校長時代には思っていました。これをデジタルという形で可視化するツールが登場したことは大きいですね。生徒指導や学級力向上、自己肯定感向上など、子どもたちの傾向をデータとして把握し、「ここをもう少し強化すれば子どもたちの自己肯定感が高まる」といった具体的な手立てが見えてくる。デジタルをパッと見て、「これだ」と感じ、それが先輩方の言っていたことに繋がるのだと理解できるようになります。

應田:
私も小学校教員時代30~40人のクラスを担当していると、どうしても良い意味で目立つ子どもたちや、課題を持った子どもたちに目が行きがちでした。試行錯誤しながら、保護者や地域と連携して取り組むのですが。当時の私にとって、一番心残りで後ろめたさを感じていたのが、一人ひとりのことをちゃんと見られていただろうかという点でした。その点まさに教育長がおっしゃる通りで、テクノロジーが入ることで、案外見えているようで実は見えていなかった部分が可視化されます。その時に必要な一声をかけられるかどうかで、子どもたちのその後の成長が全く変わってくると思います。ただし、可視化が目的ではなく、その取り組みをどう活かすかが重要だと感じています。先生方がデータを見ながら、どのようなアプローチをしたか、その結果どう変わったかといったことを、組織として共有し、実践されているのだろうと感じています。保護者からの評価も非常に高いのではないかと推察します。

岩田教育長:
ありがとうございます。工夫を凝らして取り組んでいる中で、課題も感じています。やはり、先生方の感覚が時代の変化に追いついていないのか、デジタル自体にまだ嫌悪感や使いづらさを感じておられる方が一定数います。特にベテランの先生方にその傾向が見られます。学年主任などがベテランの先生だと、その下の若手が新しい感覚で進もうとしても、「そんなことに時間かけるぐらいだったら、他に時間かけたらどうだ」といった抵抗が現場にはあると感じています。ですから、まずはやってみて、それがどうだったのか、というところまで理解してもらえる先生方が増えていく必要があると感じています。

應田:
様々な自治体の方と話していても、皆さん同じようなことをおっしゃいますね。問題の根幹にあるのは、先生方のマインドセット、つまり心の部分をどう変革していくかだと思います。そして、心の変革は非常に難しい。なぜなら「これでやってきたんだ」という成功体験があるからです。ある部分はうまくいったし、そうではなかった部分もあったのでしょう。しかし、本当に自分が教育者として、あるいは一人の人間として、教育にどう関わっていくかを掘り下げていった時、今のままでいいとは思っていない部分もあるかと思います。そういったマインドセット変革を生み出す人材育成・組織改革が今後重要になってくるのではないでしょうか。
少し私の所属する会社の取り組みを紹介させてください。弊社は2020年よりDX(デジタルトランスフォーメーション)企業として自社の人材・組織改革を強力に推進してきました。会社が本気で変わるためには、人材改革が必要だという考えのもと、様々な取り組みを行っています。その中でも一番の柱となっているのが「パーパス・カービング」という取り組みです。これは、「自分が一人の人間として、どんな生き方をしたいか」を言語化しようというものです。経営層から始まり、社員全体へと広がっていきました。最初は面倒だな、分からないなと感じる社員もいました。しかし、これを仲間と対話しながら「カービング」、つまり磨いていくのです。最初はピンと来なかったこのパーパス・カービングですが、取り組むうちに自分の言葉になっていきました。会社のパーパスと個人のパーパスは必ずしも一致しませんが、必ずどこかで重なる部分があります。そして、この重なりこそが、組織としてのパワーアップにつながります。これは教育現場でも絶対に通用する取り組みだと個人的に思っています。

岩田教育長:
面白いですね。重要な言葉を選び、なぜそれを選んだのか対話する。仕事以外の生き方も含めて対話することで、共感が生まれたり、知らなかった一面が互いに見えたりする。それが組織にも繋がっていき組織としての教育力向上につながっていくのではと感じます。とても興味深いです。

3. 地域教育資産の活用に関わって

應田:
少し話題を変えまして、日進市の教育振興基本計画の中でも地域教育資産の活用といったあたりが取り上げられていると認識しております。このあたりについて今取り組まれていることや課題認識等についてお聞かせください。

岩田教育長:
日進市においても学校運営協議会を設置し、市内全校へコミュニティスクールを導入したいと考えています。地域、学校、家庭が互いに支え合いながら子どもたちの育成に向けて動いていく。そのためには、子どもを中心にそれぞれの立場の方々がどこまで踏み込めるか。そこに必要なのはやはり人の熱量であると感じています。

應田:
ありがとうございます。最初におっしゃられていた人対人のお話に通ずる部分ですね。学校教育課長のご発表にありましたスクールソーシャルワーカーなど子どもを取り巻く関係者が情報共有し合いながら、子どもを中心にして支援方策を検討しながら取り組みを進めておられる内容と合致すると感じました。まさに、立場を超えて関係者皆で子どもを育成していくことを目指しておられるということだと理解しております。いろいろと面白いお話を伺えました。時間も迫ってきましたので、最後に日進市の教育の展望、目指していきたい姿について一言いただけますでしょうか。

4.日進市としての展望

岩田教育長:
展望ですね。どこまでいっても「人材育成」だと思っています。子どもたちが将来、目の前にあるデジタル技術を使いこなし、自分の人生を充実させてほしい。そのために授業力や学級力向上、登校支援、学校図書館連携など、デジタルを活用した取り組みは進めていますが、もう一つ大きな柱があります。それは、デジタル関連のトラブルが非常に多い現状への対応です。スマートフォンも含めてですね。この問題について、子どもたちだけでなく、地域や保護者、大人たちも見て見ぬふりをせず、一緒に考えていけるような場を作りたい。子どもたちがデジタルを使いこなしていく中で、障壁やトラブルに直面した時に、「勝手にやれ」ではなく、大人も共に考える。これは本当に地域づくりにも関わるし、家庭教育力も落ち込んでいる中で、保護者や先生の意識も変えていきたい。デジタルは、この意識を変えるための一つのツールだと考えています。タブレットやパソコンだけでなく、必ず子どもたちはスマートフォンを使います。情報モラルやメディアリテラシーも含め、AIも含めて、共に考えていける機会になることを願っています。

應田:
最後は心が育たないといけないということですね。SNSであれ、何でもそうですが、自分がより豊かに生きていくために、どううまく付き合っていくかが本当に大事です。社会全体が本気でそう思わないとまずい状況だと感じています。皆、まずいとは思っているだけで向き合えていないのかもしれませんね。

岩田教育長:
そうそう、そこです。

應田:
向き合うための仕掛けをしていくのが、教育委員会も地域も私も含め皆さん一人ひとりだと思っています。私としてもどのような支援ができるか継続的に考えていきたいです。

岩田教育長:
應田さんがおっしゃる「向き合えていない」というのは、保護者が子どもと向き合えていないということでもありますよね。小さな子どもが一生懸命親に話しかけているのに大人はスマホから目を離さない。子育てのあり方も含めて、そういった意味での「向き合い方」があると思います。どちらにしても媒体はデジタルデバイスなので、それを中心に、親子関係や先生と子供の関係がこれで良いのか、と問い直す機会になると思っています。デジタルデバイスを単に子どもを静かにさせるために持たせるなど、間違った使い方をしているケースも多い。きちんと使えば良いツールなのに、大人の都合で使い勝手がいいように使っているだけになっている。それが子どものためになっているのか、大人同士の人間関係構築に役立っているのか、仕事や人生に役立っているのか。そういったことを投げかけられるような取り組みをしていきたいと、様々な場で感じています。最後はそこだと思っています。それができないようであれば、意味がないと思ってしまいます。

應田:
この度は、大変貴重なお話をたくさん伺うことができありがとうございました。お話をお伺いできとても楽しかったです。日進市の教育の発展、子どもたちの成長を今後も祈念しております。貴重なお時間を頂戴し重ね重ね感謝申し上げます。ありがとうございました。