【自治体取り組み事例紹介】三重県桑名市(情報発信部会 自治体・学校情報発信サブ部会)

GIGA HUB WEBでは、GIGAスクール構想における「先進的な事例」「成功事例」として自治体の取り組み事例を紹介していきます。第1回は三重県桑名市教育委員会の取り組みについて、学校支援課教育指導係指導主事の清水智則氏にうかがいました。


三重県桑名市教育委員会の取り組み

 三重県桑名市教育委員会は2018年度に市内トライアル校にてiPadを整備し、2019年度には「桑名市ICT教育戦略2019〜時代をリードするくわなっ子の育成〜」を策定し、プログラミング教材の研究実践や授業支援ソフトを活用した授業改善等などを進めてきた。

桑名市2018トライアル
桑名市ICT教育戦略2019

 続く「桑名市ICT教育戦略2020」においてはGoogleWorkspaceや統合型校務支援システム「C4th」を導入し、それまで市内各校でバラバラだった書類を統一し業務データ共有を図ることで、児童生徒の学力向上のみならず教職員の働き方改革も目指した。

桑名市ICT教育戦略2020

 2021年度は「実践を通した授業改善」「運用を通した校務改善」について教育委員会・学校・家庭が一体となって推進する体制を構築、市内全体の授業改善を推進する「ICT教育推進プロジェクトチーム」および市内全体の統一運用を推進する「ICT環境整備ワーキンググループ」において市内の取り組みを推進してきた。

桑名市ICT教育戦略2021

「ICT環境整備ワーキンググループ」の組織と成果

 「ICT環境整備ワーキンググループ」は、桑名市ICT環境整備に併せ、2018年度に校長会代表と教育委員会事務局で活動をはじめ、2020年度からは市内10校より10名が代表として集まり、教育委員会事務局を加えた総勢20名ほどで運用している。教職員の内訳は「校長4名+教頭2名+教諭2名+事務職員2名」となっており、清水さんは「教職員代表をもう少し増やしたいという声もあるが、協議しながら進める人数としてこれくらいが限界」と述べる。
それでも「市内統一文書の作成は本当に苦労したので、このワーキンググループがあってよかった」と成果を誇る。

 「最初は校長会に話を聞きに行きながら課題を整理していった。協議が必要な事柄も多くあったため、市内小中学校が一体となって推進できるよう、校長会役員の方にワーキンググループへの参加をお願いした」と立ち上げ当初の苦労も思い出す一方で、「改善を受け入れてくれる学校と『これまでのやりかたで問題ない』と改善が遅れている学校との格差が出ている」と課題も分析している。「とにかく横連携をしっかり取って『つなげる』ことが重要。前向きに取り組んでくれる先生を巻き込んでいきたい」と今後についても意気込む。

市内統一文書の実例と成果

 「教員が特に負担と感じているのは、さまざまな報告文書の提出。書式は提出先によってさまざまで、しかも同じような調査や報告の項目も多い」と清水さんは述べる。そうした課題を解決するために、桑名市教育委員会は例えば以下のような文書を市内で統一し、一部を完全に電子化し運用している。

・指導要録
・セキュリティポリシー
・運用規程
・誓約書
・持ち帰りルール・ガイドライン
・家庭ルール
・保護者向け各依頼文書

 「報告文書等を作成するのは放課後、16時以降の仕事。これらを市内統一で作成することで学校現場の負担を下げることができる」との目的を掲げ「せめてこれだけでも、というものを作成した」と清水さんは述べる。

 また桑名市は全国に先駆けて「外字廃止」に踏み切った珍しい自治体でもある。この問題については別途Web記事(※)を参照されたいが、桑名市では現場の課題を整理し検討するためにボトムアップ型のワーキンググループを組織し、その解決に市内統一で進めるトップダウン型の改革と改善という両輪が非常にうまく融合しているように見える。

 現在、桑名市は「令和4年度小中一貫教育推進プロジェクト事業」として、「小中一貫に基づく授業改善と校務改善につなげる」ことと「中学校区における教員の授業力向上と、効果的なICT運用推進につなげる」ことを目指している。清水氏は「学校全体で『学びの質向上』といった意識を持ち、小中9年間を通した学びのゴールを念頭に置いた授業づくりを研修テーマとし、その学習到達目標のためにICTをどうやって活用しようか、という議論になっている学校は例えば全国学力・学習状況調査でも成果が出ている。日常的に活用しているかどうかはデータで判るようになってきているので、(公立の学校は公費で運用している以上、)そういった児童生徒の多様な端末活用データを評価に活かすことができる仕組みも検討していきたい」と今後について語る。

※「多くの自治体が直面する「人名外字問題」の対応が急務」(日経BP「教育とICT Online)
前編「「外字」が学校のデジタル化を阻むわけ」
後編「桑名市は外字全廃で教員の負担を軽減」