教育委員会訪問企画第5弾!~鹿児島市教育委員会 原之園教育長を訪問~

先進的に教育施策を推進されておられる自治体を訪問し、現状の取組や教育にかける思い等についてお話を伺い全国の皆様にお届けしております。今回は、鹿児島市教育委員会 原之園教育長を訪ねてまいりました。鹿児島市は目指すべき教育の姿として、鹿児島市に誇りを持ち、これからの時代に必要な生きる力を養い、心身ともにたくましく、学び続ける人材を社会全体で育成していくことを掲げておられます。これまでの鹿児島市の取組を具体的なエピソードを交え伺うことができましたのでお伝えさせていただきます。

■取材日

 2025年9月26日(金)

■対談者

 鹿児島市教育委員会 教育長 原之園 哲哉 様

■訪問者

 学校支援部会交流会サブ部会長 富士通Japan株式会社 應田 博司


  1. 心を育む教育と青少年教育の推進
  2. ICTの活用
  3. 図書館の充実に関わって
  4. 地域とのつながりや伝統文化を大切にした教育
  5. 教職員の資質向上に向けて
  6. 今後の展望について

本日は、鹿児島市教育振興基本計画を軸に鹿児島市の現状や課題認識等についていろいろとお話を伺えればと思います。

1. 心を育む教育と青少年教育の推進

應田:全国的にもいじめ防止等の対策をはじめ、児童生徒の心を育む教育の重要性が再認識されています。多様な背景を持つ個々の児童生徒への適切な支援を進めていくことに関して鹿児島市としての取組についてお聞かせください。

原之園教育長:今、人のつながりが薄れてきていることに問題認識を持っています。学校と子どもとのつながり、保護者と学校とのつながり、さらには教員と学校とのつながり。子どもの育成に関しては、人と人とがつながっていくことは非常に重要であると考えます。そのために鹿児島市では、つながる手段の一つとしてメタバースを活用した取組なども進めています。またデジタル技術の活用だけではなく、例えば自然の家を活用して不登校の子どもたちを対象にした宿泊学習を行い、そこに保護者も来てもらい保護者同士のつながりをつくるような取り組みも行っています。ほかにも、「こころの言の葉」といって、子どもたちが親に対する思いを葉書1枚程度のメッセージにして表し、親子の交流を図るコンクールを行っており、毎年冊子として刊行しています。率直な子どもの気持ちがたくさん表現されています。

ICTを活用して子どもの状態を情報収集しつつ、子どものつながり、保護者のつながり、教員のつながりを育むことを鹿児島市では大切にしています。教育は人がつながりあいながら向き合っていくことが基本であると考えております。

全国的に教員の志望者が少なくなってきている中、鹿児島においても例外ではなく、教員養成大学でも6割程度しか教員を志望していない。なぜ教員を志望しないのか学生に話を聞いてみると、魅力ある先生に出会えていないのではないか、つながれていないのではと感じています。

いろんな取り組みはしているが、まずはつながっていくこと。ICTも有効だが子どもたちがいろんな人とつながっていくことがまずは基本だと考えます。

應田:お話を伺って、人とのつながりの中で生きるエネルギーが生まれていくのではと感じています。

2.ICTの活用

應田:全国でも個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通した学習者主体の学びの実現に向けて、ICTを活用した取組が進みつつあります。鹿児島市での状況はいかがでしょうか。

原之園教育長:いろんな特性をもった子どもがいる中、ICTを活用することで一人一人の実態を把握することが可能になります。従来のアナログの一斉授業で35人の子どもたちを先生一人で見ることはなかなか難しかったところ、ICTを活用することで個々の特性の把握と支援が可能になりました。実際、学校の授業を見ていても、先生と語っている子、個人作業をしている子、グループで共同作業をしている子といろいろな活動を多様に進める中、先生はICTを活用して学級全体の様子を把握しながらうまくファシリテートしていますね。

子どもたちのICT活用についても、数年前は操作もたどたどしかったのですが、今ではタブレット端末をどんどん使いこなし、例えば会話では自己表現が難しい子もタブレット端末でうまく自己表現したりしています。

鹿児島市はおかげ様でどんどん活用が進んでいます。ICTの活用は賛否両論あるとは思いますが、個々の実態に応じてアナログも含めツールとして取捨選択しながら使いこなしていくことが重要であると考えます。

3.図書館の充実に関わって

原之園教育長:アナログとの併用という観点でいえば、図書もそうで紙の図書もあれば電子図書もありますよね。鹿児島市では公共図書館で電子図書を使えるようになっていて、子どもたちは学校にいながら、家にいながら図書館の本を読めるようになっています。

應田:ということは、公共図書館と学校が連携しているということでしょうか。

原之園教育長:そうですね。利用者のニーズに応じたサービスを提供しているという意味では、天文館図書館はカフェがあったり休憩できるスペースがあったり、勉強もできる場所があったりと施設面での工夫もなされています。

應田:子どもたちだけでなく、大人も含めて図書館に慣れ親しんでいくための仕掛けづくりですね。

街全体の教育力の向上にもつながると感じました。テクノロジーを活用した仕掛けという意味では、図書館サービスの一つとしてAIを活用して探索的に興味関心を拡げていくようなものもあります。読書にあまり興味のない人でも、読書に親しんでいくための一つのきっかけとして面白いなと思います。

原之園教育長:いいですね。関連がどんどん広がっていきながら興味を拡げていくことができそうですね。

4.地域とのつながりや伝統文化を大切にした教育

應田:鹿児島市は歴史的な背景を持つ街として有名ですが、そうした歴史や伝統を活かした教育的取組などはありますか。

原之園教育長:鹿児島市は昔から、地域とのつながりや伝統を大切にした教育を進めています。その一つが「郷中教育(ごじゅうきょういく)」といって、異年齢の子どもたちがグループをつくって鍛え合いながら学ぶ教育です。それから「山坂達者(やまさかたっしゃ)運動」というものがあります。城山という山をみんなで登り切って体を鍛える行事です。また、地域に「棒踊り」などの伝統的な踊りがあってそれを伝承していこうということで、運動会で発表したりしています。このように、伝統的な文化をうまく活かした教育活動は鹿児島市にはたくさんあります。

それから、地域とのつながりという意味では学校運営協議会は鹿児島市全校で取り組んでおり、地域で学校を盛り立てていこうと積極的に活動していただいております。また、学校支援ボランティアも50,000人規模で在籍し、学校に関わってくれる人がたくさんいます。ボランティアには教員OBの方が多く、鹿児島市の子どもたちのために活動してくれています。

應田:郷土愛の強さを感じますね。

原之園教育長:その郷土愛を大切にしながら、つながりを大切にしていきたいと思います。地域と学校がつながりあい、一体となって学校教育を進めていければと思います。

應田:探究的な学びなどで、地域社会と関わり合いながら取り組みを進めておられる事例も全国では数多く見受けられます。鹿児島市においても、地域が密接に関わりながら地域と一体となった教育を進めておられる良さがあると感じました。

原之園教育長:そうですね。うまく鹿児島の良さとして今後も活かしていきたいと思います。

5.教職員の資質向上にむけて

應田:変化が激しい社会において教職員の資質向上がより一層求められていると感じています。このあたりについてお話をお聞かせください。

原之園教育長:変化が激しい社会の中で教育委員会としても常に学んでいく姿勢が大切であると考え、数多く在籍している指導主事に対して月1回研修を実施しています。指導主事は学んだことを学校現場に広めていくために、できるだけ学校に通い、学校の教職員と語り合う、つまり同僚性を大切にしながら先生方の資質向上に努めています。また、教科部会など各部会の活性化も進めています。それによって教職員同士の横のつながりが生まれ、教職員のスキルも相乗効果で上がっていくと考えるからです。

こうしたことを通して魅力ある教職員に育っていき、子どもたちはあんな先生になりたいなと感じていく。そのことが、教員の志望者が増えていくことにつながると感じています。つまり、魅力ある教員を育てていくことが、教員の志望者が増えていくことにもつながっていくと考えています。

6.今後の展望

應田:いろいろな観点で興味あるお話をたくさん伺えました。それでは最後に、今後の展望等についてお聞かせください。

原之園教育長:やはり子どもたちの育成にあたっては、子どもたちが自ら考える力を育てていくということをこれからも大事にしていきたいですね。変化の激しい社会においても自分で考える力を身につけていくことが何より大切であると考えます。膨大な情報に触れる機会が多い世の中ではありますが、いろんな情報をもとに整理しながら考え、行動をおこせる子どもたちを育成したいと思います。自分で考えて、行動し失敗もするからこそ人生って面白いと思うのです。だからこそ、単に教え込む教育でなく、子どもたちが試行錯誤しながら自ら考え抜く教育を大切にしていきたいと考えております。そのためのツールとしてICTをうまく有効活用していきながら、データを利活用した支援も進めていきたいと思います。

應田:データ活用に関しては、今後子どもたちが自分のデータを活用して、自分がどのような学びや経験を積んできたのか、自分にはどんな特性があるのかといったことを認識しながら、自己成長や自己実現に向けて自身のデータを有効活用していける世界を作っていけたらと考えております。

原之園教育長:そうですね。テクノロジーはどんどん進化しており、生成AIなども子どもたちが自分で考えていくための壁打ちとしてうまく有効活用していければと思いますね。また、昨今ウェルビーイングといったキーワードも出ている中、そういう状態をどう創り出していくか考えていく、その過程が大切ではないかと思うのです。

應田:貴重なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました。今後の鹿児島市の教育の益々のご発展を祈念しております。本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。