教育委員会訪問企画第4弾!~枚方市教育委員会 谷元教育長を訪問~

先進的に教育施策を推進されておられる自治体を訪問し、現状の取組や教育にかける思い等についてお話を伺い全国の皆様にお届けしております。今回は、枚方市教育委員会 谷元教育長を訪ねてまいりました。枚方市は、『「夢と志を持ち、可能性に挑戦する“枚方のこども”の育成」~子どもたちの未来への可能性を最大限に伸ばす枚方の教育~』を教育理念に掲げておられます。これまでの枚方市の取組を具体的なエピソードを交え伺うことができましたのでお伝えさせていただきます。

■取材日

 2025年9月19日(金)

■対談者

 枚方市教育委員会 教育長 谷元 紀之 様

■訪問者

 学校支援部会交流会サブ部会長 富士通Japan株式会社 應田 博司


  1. 子ども主体の学校づくりの推進にあたって
  2. 多様な背景を持つ子どもたちへの支援に関わって
  3. 公共図書館等と学校教育との連携や充実
  4. 今後の展望について

1. 子ども主体の学校づくりの推進にあたって

應田:子どもたちが可能性に挑戦し続ける力を育むための学びの実現に向けては、授業スタイルあるいは授業観そのものを変革していく必要があると認識しており、そのあたり先生方の意識改革をどのように進めてこられましたか。

谷元教育長:教科書を使ってどう教えるかという授業から、子どもたちが主体的に学んでいく授業スタイルにどう変革していくか。変革にあたっては、ICTの活用が重要な役割を担うと考えています。

枚方市では、GIGAスクール構想より以前にタブレット端末を活用した教育の検討を進めており、教育活動でスムースに動作することを大切に考え機器やネットワーク環境を選定してきました。そうした中、GIGAスクール構想により一気に一人1台環境の整備が進み、ちょうどコロナもあり、オンラインもうまく活用しながら子どもたちの学びを止めないよう進めてきました。はじめは先生方もどう活用すればいいか戸惑いがありましたので、枚方市では各校からやってみたいという先生方を募りワーキングチームを立ち上げて研究をしっかりと行いました。ワーキングチームの先生方が学校で情報を拡げていくことで、さらに様々な実践が生まれ学校に広まっていきました。

その際、教育委員会としてはトップダウンで指示するのではなく、できるだけ自由に試行錯誤できるようにしました。1点だけ指示したのは、子どもたちが端末を持ち帰って家庭でも学校でも使えるようにすることです。充電も家庭でやってから学校に持ってこさせるようにしました。

そうした中、子どもたちは多様な使い方をどんどん身につけていきました。すると、タブレット端末を通じて先生方と子どもたちとの学び合いが自然と生まれるようなりました。そこから、ベテランの先生方と経験の浅い先生方との交流が起こってきました。経験の浅い若手の先生方からはICTの活用方法を学び、ベテランの先生方からは授業の在り方を学ぶ。双方の特性をうまく活かした教員間の学び合いが生まれるようになりました。この学び合いによって、一人一人の考えを見取りながらどう授業を進めていくかを考えたりするなど、授業の質向上、ひいては子どもたち主体の学びを、ICTを一つのツールとして子どもたちがうまく使いながら進めていくことに自然と変わっていきました。それが、個に応じた指導につながっていったと感じております。

應田:となると、授業での先生方の発言量は従来よりも確実に減ったのではないでしょうか。

谷元教育長:そうですね。先生方の発言量が減ってきたことはもちろんですが、子どもたちに何を話合わせれば子どもたちの学習に深まりが生まれるか、そういったことにつながる「問い」など、先生方の発言の質も大きく変わってきました。1時間のめあてだけでなく、単元としてのゴールを見い出しながら先生と子どもたちで学びを作り上げていく過程を通じて、子どもたちが主体的に学んでいくようになりました。こうした変容はタブレット端末の活用が大きなきっかけになったと感じています。

2.多様な背景を持つ子どもたちへの支援に関わって

應田:ありがとうございます。お話を伺い、一人一人が主体的に学んでいくためにはICTは不可欠であると感じました。一人一人といえば、子どもたちは個々に多様な背景をもっています。それだけに、個々の背景や課題に応じた支援が今、全国の自治体でも求められていると認識しておりますが、そういった観点で枚方市として何か取り組まれていますか?

谷元教育長:様々な観点での特別な支援を要する子どもに対する支援にICTは有効ですね。また近年増加傾向にある外国にルーツを持つ子どもに対しても言語や習慣に応じた個別の対応がなかなか難しかったのですが、タブレット端末を軸に多様な支援が可能になりました。不登校の子どもたちに対しても、家庭からオンラインで学べる環境を作ったり、メタバース空間を活用した学びの場を提供したりと、多様な状況に対応できるようになりました。

應田:ICTの特性をうまく活かした支援ですね。ICTの特性という意味では、個々の子どもたちの支援のために先生方をはじめ自治体を含む多様な関係者が情報連携・共有し合い、子どもの支援のために活用していく仕組みづくりが重要だと考えます。

谷元教育長:医療分野でも情報を一元管理し情報活用する仕組みが広がってきています。学校現場においても、子どもの安全や個性に応じた成長を考えれば、情報を一元管理して引き継いでいく仕組みづくりは必要になるのではないかと考えています。その子にとって必要な支援は何か。個人情報保護やセキュリティの担保をしっかりと行った上で、子どもを取り巻く関係者が権限に応じて情報を活用し支援していく仕組みが出来上がっていくことを今後期待したいです。

應田:実証レベルではありますが、そうした取組も全国で少しずつ進みつつありますね。その中でもよくある課題は、各課や関係者が連携していくための体制づくりではと感じています。

谷元教育長:センシティブな情報を一元的に管理するとなれば、運用方法やリスク管理など体制づくりはとても重要になるでしょうね。データの一元管理によるメリットも大きいと思いますが、リスクも踏まえた良し悪しを丁寧に検証しながら取り組みは進めていくべきですね。

應田:そうですね。リスク管理は十分に行いながらも、多様な関係者がデータをもとに必要な支援を検討し組織として取り組んでいく。そうすることで、学校の先生方も子どもたちも助かることにつながると思います。

谷元教育長:個別の対応は先生の勘や経験のみでなく、データをもとに情報共有し対応することで、起こってはならない事象にも未然対応につながると思います。

また子どもの健康面でいえば、健康診断等の保健情報を一元的に抜け漏れなく管理し子どもの健康に関わる実態をしっかりと把握して子どもに対応していく必要があると感じています。

應田:健診データの連携に関わってはまだまだ課題が多いと認識しています。就学前から小学校、中学校へと抜け漏れなくデータが引き継がれていく仕組みづくりや、保護者との情報連携の仕組みなど、まだまだ取り組むべき課題はあるのではないでしょうか。

谷元教育長:そうですね。まずは何よりも子どもたちのために必要な学校現場の在り方を考え、デジタルとアナログそれぞれの優位性を見極めながら、ICTを有効に活用した情報連携ができるといいなと思います。

3.公共図書館等と学校教育との連携や充実

應田:生涯学習の要素を含んだ観点で一つお話をお聞かせください。枚方市教育振興基本計画に記載されています「遊びや学びの充実」に関わって、公共図書館等、公共施設と学校教育との連携や充実に関わって何か取組はされていますか。

谷元教育長:図書館でいえば、昨年度にバーコード管理からICタグ管理へと順次変更を始め、よりスピーディーな本の貸し借りができるようになりました。利用者が複数冊同時にパッと借りられるようになりましたし、在庫管理の作業効率が向上したことから予約本の提供なども以前に比べて早くなりました。子どもたちはじめ、市民の皆さんにとって、気軽にストレスなく本と触れ合える環境づくりがさらに一歩進んだのではと感じています。

また、アナログの図書ももちろん大切ですが、デジタル図書の環境整備にも力を入れています。枚方市では「ひらかた電子図書館」として、インターネットを通じてパソコンやスマートフォンなどで電子書籍を読めるサービスを実施しています。この電子図書館にアクセスできるアイコンを、児童・生徒が持つタブレットのホーム画面に設定したことで、子どもたちがさらに気軽に図書に触れ合えるようになりました。

應田:電子図書館のアイコンを児童・生徒のタブレットに設定するのは単純でありながらも効果的で、公共図書館と学校教育が連携した素晴らしい取り組みですね。

これら取り組みを通じて子どもたちがもっと気軽に本に親しみ、本の世界に浸れるようになるといいですね。そういう意味では大人も子どもも皆、読書に慣れ親しめるような仕掛けづくりができると面白いなと思います。今、興味関心をAIで掘り下げていきながら読書に関心を仕向けていくサービスなどもあったりします。

谷元教育長:自分が読みたい本が決まっていなくても探索的に興味を拡げていく仕掛けは面白いですね。

学校教育でも並行読書などで教科学習から読書を拡げる取り組みをよくやりますが、こうした仕組みがあると読書の幅を広げるきっかけになりそうですね。

4.今後の展望について

應田:いろいろと興味深いお話をたくさんお聞かせいただきました。最後に、枚方市としての今後の展望についてお聞かせください。

谷元教育長:今、探究的な学びが全国でも言われていますが、枚方市としましても探究的な学びの発表の場として※「GIGAフェス」という形で教育イベントを開催しています。毎年1回開催しており昨年度はAIメタバース体験イベントや発表型イベントなどを開催しました。今年度は、枚方の子どもたちが取り組んでいるPBLの内容について子どもたちに発表させます。ゲストとして中学生の起業家を招待します。その方に発表を聞いてもらい、同じ年代の子どもが自分で起業しているということで子どもたちにも夢と志とチャレンジ精神をもってほしいという意味も込めて開催する予定です。

應田:子どもに夢と希望を持って生きてほしいというのは強く共感します。

谷元教育長:子どもたちは教科書で学ぶことも大切ですが、身近な生活や地域の課題を知り考え、その考えを広めていく。地域の人や企業の思いを知り、自分たちは今後何ができるか考え情報発信していく。そんな取り組みをPBLとして推進していきたいと考えています。その発表の場として

「GIGAフェス」を活かしていきたいと考えています。そうした取り組みを通じて、子どもたちが学校の勉強が楽しい、主体的にやりたいことを見つけながら他者と協働して学んでいく楽しさを実感していくことで、学校がより楽しい学びの場となり、自然と不登校が減りいじめが減っていくような、そんな学校にしていきたい。そのためにも、子どもたちの主体的な学びにおけるゴール設定の一つとしてGIGAフェスを開催していきたいと考えています。

應田:枚方市では、子どもたちの主体性を育むことを大切にしていることが伝わってきますね。結びに、これからの枚方市の教育について谷元教育長の思いなどお聞かせいただけますか。

谷元教育長:一人一台のタブレット端末などICTの活用は教育現場の状況を大きく変えています。まだまだ広がりを見せる様々なデジタル技術は、場面に合わせてうまく活用することで、児童・生徒一人ひとりに応じた個別最適な学びをさらに進めることができるのではないかと思っています。また、時代にフィットした学びを子どもたちに提供していくためには、教職員、教育委員会、そして教育長である私自身が常に学び続ける姿勢を持ち続けないといけません。これからも、新たな手法や社会の変化を柔軟に受け入れ、子どもたちの未来を見据えた教育をしっかりと進めていきたいと考えています。

應田:貴重なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました。

重ね重ね御礼申し上げます。今後の枚方市の教育の益々のご発展を祈念しております。本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。

※GIGAフェス2024 
https://sites.google.com/hirakata.osakamanabi.jp/giga-school-hirakata/giga-%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%B9-2024
【PV】GIGAフェス2024を開催!https://youtu.be/yeHXFnHC47k