【交流会レポート】「メディアリテラシー教育と学校現場のいま」オンラインセミナー(2025年7月22日開催)

GIGAスクール構想推進委員会 学校支援部会交流会サブ部会では、表題のセミナーを実施しました。メディアリテラシー教育を行うことは重要な課題でが、多忙を極める学校現場において、それをどのように推進していくべきなのか。本セミナーで、実際の教育実践の紹介をもとに、メディアリテラシー教育の現状と今後の展望について、登壇者による議論を通して考えました。本レポートではその概要をお伝えします。

■開催日

 2025年7月22日(火)

■登壇者

 スマートニュース メディア研究所 長澤 江美 様

 北海道教育大学 山口 好和 様

 函館市立本通小学校 松倉 翔太 様

 交流会サブ部会リード 八千代市立村上東中学校 野口 雄毅 様

■全体進行・ファシリテート

 学校支援部会交流会サブ部会長 富士通Japan株式会社 應田 博司


  1. 事例紹介1 中学校「あなたは、デマ情報を見破れるか?」(野口様)
  2. 事例紹介2 小学校「想像力のスイッチを入れよう」(山口様、松倉様)
  3. メディアリテラシー教育のイマとミライ(長澤様)
  4. ご質問へのご回答
  5. 今後の展望について
  6. 最後に

1. 事例紹介1 中学校「あなたは、デマ情報を見破れるか?」(野口様)

■情報の信頼性を考えるためのチェックリスト

実際のSNSに流れたデマ情報をもとに、そのSNSの情報の信頼性を考える授業紹介の事例を紹介します。情報の信頼性をチェックするときに、アメリカ図書館協会の開発した「CRAAPテスト」と呼ばれるチェックリスト(批判的に情報をチェックするリスト)があります。これを、法政大学の坂本旬教授が日本語化した「だいじかな」チェックリストを用いて、批判的に考える力を育む指導を実践しました。

■事例紹介

3つの事例で、「だいじかな」チェックリストを通して、批判的に考えるトレーニングを試みました。最後のケースでは、コロナ時にSNSの情報を起因としてトイレットペーパーが品薄になる社会現象について知り、「防ぐにはどのようなことが必要か?」について、一歩踏み込み深く考えるワークを実施しました。

これは、SNS等の特性による現象、社会心理的な現象が複雑に絡み合っており、「フィルターバブル」「エコチェンバー」などのSNS等の特性を理解し、考えることが必要であることを学びました。

■今後の展開

 今後も定期的にメディアリテラシー教育を実施します。指導にあたり、学校を超えたチームをつくり、チームで価値を共有し、協調し、機敏に指導するアジャイル指導を実践します。

【参考資料】
https://note.com/nogulabo/n/n09997ebeafb5

2. 事例紹介2 小学校「想像力のスイッチを入れよう」(山口様、松倉様)

    ■教材:「想像力のスイッチを入れよう」(光村図書:5年)

    本教材を通して、4つの「想像力のスイッチ」の指導実践をし、積極的にICT環境を活かす指導をしました。

    ・『まだ分からないよね。』 :情報に接した瞬間の姿勢

    ・『事実かな、印象かな。』 :情報に含まれる事実の吟味

    ・『他の見方もないかな。』 :多角的な情報の見方や考え方

    ・『何がかくれているかな。』:報道されないことを想像する習慣

    ■ICT環境を活かす場面

    スプレッドシートを活用し、絵本、新聞、ラジオ、ニュースの特徴を分析しメディアとの付き合い方を考えたり、メディアを選択して分析的に眺め、児童がテーマを決めて分析をしたりするなど多角的に考える力を育みました。児童はスライド(Canva)に分析した内容をまとめていきました。

    ■今後の展望

    「メディア」を眺める、「メディア」を創る力の種をまくことができた。

    「総合的な学習の時間」で、教科横断で今回学習した「メディア」を使った制作の時間とつなげるなど、新たな場面で活用できることを期待している。

    改善点としては、ICTの活用方法と、多様なメディアを扱う両面性の吟味、評価方法、検証方法としてルーブリックなどの導入などが挙げられる。また「馴染みのない」メディアにも児童に挑戦して欲しいと思っている。

    ■まとめ

    ・メディア経験が、児童や家庭によって様々であった(全くラジオを聞かない、新聞を取っていないためほぼ読まない児童と、旧メディアの経験を持つ児童とがいる)。

    ・授業を通して、じっくりメディアの特徴を知り、これから進んでメディアと付き合おうとする姿を育てていくことが必要であり、 GIGAスクールにおける 1人1台環境は、メディアの利用を促すものである。

    ・「メディアのことを考えてみたい」という動機を促す環境をデザインしていくことが大切。

    3.メディアリテラシー教育のイマとミライ(長澤様)

      子どもたちが現代のデジタル時代を生き抜いていくために、デジタル時代にあったメディアリテラシー教育が必要です。それはどんなものなのか、どう身につけていくのか、についてお話していきます。

      ■1:メディアリテラシー とは何か

      メディアリテラシーの定義は、「民主主義社会におけるメディアの機能を理解するとともに、あらゆる形態のメディア・メッセージへアクセスし、批判的に分析評価し、創造的に自己表現し、それによって市民社会に参加し、異文化を超えて対話し、行動する能力」(法政大・坂本旬教授)。

      これをかなり噛み砕いていうと、「メディアの特性を理解し、”上手に付き合って、自分の人生に活かす”ことのできる力」と言えると思います。さらにそこからブレイクダウンすると、下記の2つを身につけることとなります:

      ・ 情報を多角的に考え、対話する力であり、その中核のクリティカルシンキング(熟慮、吟味する思考)を身につけること

      ・メディアの特性を理解すること

      メディア(Media)は、「情報を伝えるもの」のことをいいます。情報を伝えるものー教科書、ポスター、SNSで流れる情報・・・私たちは「メディア」に囲まれていますし、そもそも私たち一人一人が「メディア」と言えると思います。この現代において、メディアリテラシーは、必須の力と言えるでしょう。

      ■2:「今」必要なメディアの知識とは

      現在の「デジタルメディア」の情報と付き合う上で、知っておくべき知識は、「アルゴリズム」「マスメディアとソーシャルメディアに流れる情報の特徴の違い」「生成AI」について、です。

      特に、多くのデジタルメディアに使われている「アルゴリズム」について知らないと、デジタルメディアで、自分の手元に届く情報が、「どうして届くのか」を勘違いしてしまったり、フィルターバブルに気付かないうちに閉じ込められたりしてしまいます。

      ■3:学校でどう扱うか

      2つポイントがあります。1つ目、クリティカルシンキングを養う授業は、国語や算数などの教科でも取り入れることができます。スキルであり、日々の積み重ねが重要なため、普段から「なんでだろうね」などの声掛けや、クラスメイトや先生との対話を通して、多角的に考える力を養っていくことが大切です。

      2つ目の、メディアの知識についての授業は、様々な方がすでに授業を行っているものがあるので、その例を参考に実施するといいかな、と思います。(総務省HPなどでも紹介されていますし、弊研究所でもそうした事例を紹介しています)

      4.ご質問へのご回答

        ・ご質問

        「アルゴリズムや基本的用語や知識について、体系的に学びたい場合、参考文献等ありましたらご紹介いただければと思いました。」

        ・回答

        *詳しく知りたい方へ*

        アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか (集英社新書) 新書 – 2025/5/16
        宇田川 敦史 (著)

        *概念的に(ざっくりと)知りたい方へ*

        SNS時代のメディアリテラシー ――ウソとホントは見分けられる? (ちくまQブックス) 単行本(ソフトカバー) – 2024/11/7
        山脇 岳志 (著)

        *古めの本(初出は2012年)となりますが、わかりやすいのでー「フィルターバブル」を提唱した本の文庫版です*

        フィルターバブル──インターネットが隠していること (ハヤカワ文庫NF) 文庫 – 2016/3/9
        イーライ・パリサー (著), 井口耕二 (翻訳)

        5.今後の展望について

        本セミナーを通して、メディアリテラシー教育を学校で取り組むポイントが数多くみつけることができました。今回のセミナー経験を活かしてステップアップした取組みにつなげていきます。

        6.最後に

        ご参加いただいた皆様のおかげで素晴らしい交流会となりました。あらためまして感謝申し上げます。今後も引き続き教育現場の皆様にとって有益となる交流会を実施してまいりたいと思います。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。