【交流会レポート】第3回 学習者起点の学び 授業実践報告会~飲食アルコール自由~(2022年12月22日開催)

12月22日(木)に「第3回 学習者起点の学び 授業実践報告会~飲食アルコール自由~」というテーマで交流会セミナーを開催しました。

交流サブ部会では、「学習者起点の学びの促進」というテーマで議論を重ねています。今回は、全5回中の第3回で、第2回で共有した事例をもとに中学校現場で実践した授業の報告と、その内容についての討議をしました。

当日は、学校教育関係者はもちろん民間事業者など多彩な方々に多くご参加いただけました。

○登壇者(授業実践の共有)

・「学習者起点の学びの実践~中学校の現場から~」 南房総市立富山中学校 野口 雄毅

○ファシリテーター

 南房総市立富山中学校       野口 雄毅
 社会デザイン協会/松蔭大学    鈴木 秀顕
 松戸市立和名ケ谷中学校      高瀬 浩之
 三鷹市立第七小学校        後藤 裕介
 コスモピア株式会社                         佐野 悠介
 ICPF理事長、東洋大学名誉教授  山田 肇
 交流会サブ部会長 富士通Japan 應田 博司

目次

(1)趣旨説明
(2)登壇者による授業実践の報告
(3)参加者による授業実践について討議
(4)まとめ
(5)最後に


(1)趣旨説明

令和の日本型学校教育の姿のひとつとして、個別最適な学びの実現があります。これは、「学習者起点の学び」の姿です。また、新学習指導要領の主体的な学びは、「学習者起点の学び」の一側面を持っています。この主体的な学びは、多くの学校で課題発見・解決学習やアクティブ・ラーニングとして事例を聞くようになりました。

11月に実施した第2回セミナーでは、登壇者の事例を学び、多くの議論から学習者起点の学びの実践ヒントとアイデアが生まれました。第3回は、議論で生まれた学習者起点の学びを教育現場で実践した報告です。

(2)登壇者による授業実践の報告

●「学習者起点の学びの実践~中学校の現場から~」

南房総市立富山中学校 野口 雄毅

11月中旬から約1カ月間、中学校での実践報告です。

◎授業の基本パターン

「毎日席替え」「教師の説話10分」「生徒の活動40分」「グループ活動」「対話中心」を授業の基本パターンとして実践しました。

◎不親切な授業のすすめ

生徒が、学習課題を解決していく活動では、活動内容を生徒のタブレットに配付し、グループで対話しながら進めました。このとき、課題解決プロセスを生徒にとってわかりにくくすることで、グループでの対話を生み出します。これまでの生徒にとって「わかる授業」から「不親切な授業」へ教師が生徒との関わり方を変えることで、生徒自らが問いを生みだし、学習者起点の学びに向かうような授業デザインで取り組みました。

また、生徒が、これまでの学習内容を定着する活動では、タブレットを活用して、生徒一人一人がGoogleForms上でのテスト問題をつくり、学級全体で問題を解く活動をすることで、学習内容の定着を図る実践をしました。

さらに、生徒が、学習を振り返る活動では、タブレットで振り返りを入力します。その内容を、級友に共有フォルダ等で公開させることで新たな疑問に気づけるようにしました。

約1ヵ月の実践後アンケートより、学習者起点の学びが楽しいと答えた生徒は、91%で、学習に対して前向きな姿勢を見ることができました。

課題としては、学習者起点の学びが楽しくないと答えた生徒9%の内容から考察すると、「対話活動の苦手意識」や「グループ活動の学習内容の差が生じる」などが挙げられます。今後は、これからの課題を解決するような手立てと対話や発表への評価方法を考えて実践を重ねていきます。

これからの教師の役割は、学習課題に向けた生徒の問いを生み出すデザイナーとして、学習課題に向かう生徒のファシリテーターとして変化していき、効果的なICTの活用を組み入れていく必要があると実感しました。なにより、学習者起点の学びは、教師にとって生徒の考えや活動を良く見ることができ、生徒との対話が増え、信頼関係が高まりやすくなることが教師にとって最大のメリットではないかと思います。

◎その他実践

毎日席替えをする実践や導入場面で生徒の「やってみようかな」と思わせる実践などは、以下のサイトをご参考にしてください。

 学習者起点の学び|野口雄毅|note(https:/note.com/nogulabo/m/mf96b6ad9a1a9)

(3)参加者による授業実践について討議

【登壇者への質問と回答】

●多様な子どもの実態をどのようにカバーしているか。

一斉授業に比べると生徒を観察する時間が増え、手厚い支援ができます。授業の中心が「生徒の活動40分」となり、教師は、生徒の活動中は机間巡視をしながら、困っている生徒やグループの様子を観察でき適切な支援できます。

●振り返り活動の効果の実感はどうであったか。

振り返りを他者と共有することが前提となっているため、生徒は頑張って書こうとする姿勢が生まれることと、他者の振り返りを見ることで新しい気づきや疑問が生まれている。

今後は、振り返る視点を、引き続きアンケート機能を使用しながら充実させていきます。※以下は、参考サイトです。

 参考:文部科学省 振り返り活動のDX

https://www.mext.go.jp/studxstyle/students/6.html

大分県 「振り返り」の充実に向けて

https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2114948.pdf

●基礎学力の定着についてどう担保していくか。

今回の授業後は、基礎学力の定着をはかる定期テストなどがなかったため、定量評価はできていいません。生徒の成果物より定性評価をすると、一斉授業と比較しても基礎学力があまり変わらないとみています。また、計算練習や基礎的な用語などの習得は、グループ中心の学び合いを中心とした授業を取り組む予定です。

これからも実践を重ね定量評価をするとともに、対話する力、発信する力、情報リテラシーも基礎学力として積極的に評価をしていこうと考えています。これは、「思考力・判断力・表現力等」につながるものとして、評価に結びつくと考えています。

●1か月近くにわたる試行錯誤の取組について共有いただいた。こうした成功事例を他の先生方が学んで自分のものにしていくためには?

短期間で実践ができたのは、本日発表する場を頂いたからだと思っています。第三者へ報告しなければならないという状況下だからこそ思考錯誤ができたものだと思います。この経験から、多くの先生方が学んでいくためには、試した成果を定期的に発信し、フィードバックを得る場をつくることがひとつの方法としてあるのではないでしょうか。

自分の授業への課題や悩みを抱えている先生方であれば、学習者起点の学びに変えるスタートに立っていると思います。一人で実行するのは、苦しい場面があるので、周りの教職員と協力関係をつくり、その一歩を踏み出していきましょう。もちろん、ICTConnect21などの外部機関を発信の場として活用させて頂くのも良いと思います。

●どれくらいの時間をかけて準備されているか。授業の素地があったのではないか。

結果的に一斉授業と学習者起点の学びの授業への準備時間は変わりません。ただし、取り組み始めは、席替えツールの用意や生徒へタブレット経由で配付する資料づくりなど準備時間が増えました。実践を重ねていくうちに、不必要な資料づくりをしなくなり、生徒を良く観察できるので支援ポイントが絞れます。一斉授業と視点を変えて授業準備をしていくので、時間は従前と変わらなくなりました。

●周りの教員の理解は得られているかが知りたいです

本校の研究項目のひとつに「対話的な学び」がありますので、一定の理解は得られています。また、新学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」を実践しているので、校外の方々にも容易に説明ができると思います。

ご指摘を受けやすいのが、ご質問にもあった①特別に支援に必要な生徒への対応、②基礎学力の担保、③グループの知識の差により学習の深まりのちがいがでる点かと思います。①②については、上述した通りです。③グループの知識の差により学習の深まりのちがいがでるについて、基礎学力に「読み・書き・計算」だけではなく、対話力、発信力、情報リテラシーを含め、生徒や保護者、教職員との共通理解ができるようにしたいと考えています。学習者起点の学びの視点で、対話する方法(※1)や発信する方法の基礎を生徒に提示し、授業で実践を重ね、良い対話や良い発信を生徒の意見を含めて作り上げていき、それを評価(ルーブリック評価)として教師が活用していくことが良いのではないかと考えており、学校全体で取り組めるよう、これからも実践を続けていきます。

※1参考資料 対話の仕方(ベネッセ)

https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/02toku_0624.pdf

●学習者視点とタブレット活用について

これまでGIGAスクールの推進でタブレットの機能やアプリを使おうと取り組んできましたが、学習者起点の学びの実践を重ねていくと、生徒が学習課題に向かって進むとき、必要であるならばタブレットを使用するスタイルに変化しました。1時間の授業でタブレットを使用するのは振り返りの書き込みだけの授業もあります。ただし、教師がタブレットの機能を知っていないと使える場面がわからないことは事実であるので、困ったことを相談できる校内体制や検索できるサイトなどがあるといいのではないかと思います。また、生徒のタイピング力や情報モラルも基礎的な力として必要です。

(4)まとめ

現場での実践とセミナーでの議論もとに、学習者起点の学びの成果と課題が見えてきました。さらに、学習者起点の学びを深めるために、多くの学校で実践し、教師、児童・生徒が思考錯誤していくことが大切です。さらに一歩、学習者起点の学びを進めるための方法を楽しく考えていきましょう。次回セミナーもご期待ください。

参加者より

・本日のセミナー、期待通りで満足でした。
・生徒が生き生きしている様子がわかりました。
・素晴らしい実践があり、活発な意見交換があり、まさに「研修らしい研修」でした。
・学習目的がありきのタブレット活用の内容なので満足した。
・学習者起点の学びを進めていくと、生徒の科学的視点や日常生活の変容もでてくると面白いですね。
・不親切な学びという学習プロセスをあえて欠如させる点が大変興味深い。
・学習者起点の授業と家庭学習との関連も見えてくるとよいですね。
・短期間に、どんどんすばらしい実践を積み重ねていると思います。それは、「ひとつひとつの実践を、本気でつくりあげている」ということに尽きると思います。本当に、すばらしいと思います。これからも、共に学びつづけたいと考えています。よろしくお願いいたします。
・今後のセミナーも、このまま、たのしく、アクティブにすすめていきましょう。

(5)最後に 

ご登壇、ご参加いただいた皆様のおかげで素晴らしい交流会セミナーとなりました。あらためまして感謝申し上げます。今後も皆様にとって実りある企画を実施していこうと思いますので、宜しくお願い致します。